妄想世界に屁理屈を。
白い影がその女の首元を掴み、黒い影が幼女を地面に押し倒した。
白い影はどうやら手のひら、黒い影は刺股のようなものだった。
一瞬で間合いに入って、なおかつ武器を振り回しながら互いの動きを封じる。
こんな芸当ができるのは、一人しかいない。
「女が目ェ血走らせんな。誰も男はみたがんねぇよ」
低い声に好きな人以外には冷たい温度。
“ふぅー!だありんかっこいー!”
「だろ?」
ニヤリと不敵に笑うは、黒庵さんだった。
「なっ…く、クロ?」
「……」
驚きに目を開く女に、つまらなそうに口を尖らせる幼女。
「ミサキ、この餓鬼縛っとけ。おらよっ」
女から手を離し、黒いジャケットのなかから白い札を取り出して、投げてミサキくんに寄越した。
“あれ?札なんかお前使うっけ?”
「ああ、これどうやら安倍晴明のやつらしくて…黄龍さんから押収したからあげるって朝枕元にあったんだよ
ミサキ、貼るだけでいいから」
「かしこまりました」
ペタ、と幼女の二の腕のあたりにそれを貼る。
するとぐにゃりと空気が入ったように膨らんで、うねうねと自分でなんか気持ち悪い動きをしながら幼女に巻き付いた。
結び目のできないロープの出来上がり。
「あ、これって…昨日スズが縛られてた…」
まだ心に傷があるのでは、とチラリと下を見れば、なぜか手を合わせてお目目をキラキラ。
「みたいね。あると便利だと思ってたの!黄龍さまったら、なんてお優しいのでしょう…!」
「…主至上主義設定なめてたよ…」
もうなんでも心酔すんのかこいつ。
動きは封じられたから刺股は不要になったので、スッと消えてしまった。