妄想世界に屁理屈を。
「おやおや、クロとその家来と…あとはスズちゃんだけかい?
アカネはどうした」
若干色の黒い肌に、豪奢な黒い布を妖しくまとった女。
骸骨の髪飾りにいくつも宝石のついたネックレス。
どこか性的なそれは、インド版花魁といった感じ。
「…アカネは、そこ」
その女に俺を指差した。
「…冗談は顔だけにしとくれよ、確かに霊力は男でも体が女なんて変わってる子だけど、人間じゃないかい。
アカネとはぜんっぜん違うよ」
「いえ、荼枳尼天殿…それは、」
ミサキくんが口を挟もうとして、目を見開いた。
「ああ…お前さんの中にいるってことかい…
話は白狐から聞いてるよ。
あたしはダーキニー、日本では荼枳尼天と呼ばれてるね」
「ど、どうも。俺は柚邑といいます」
手を伸ばされたのでそっと俺も伸ばせば、掴まれた瞬間に引き寄せられた。
「ぅえ!?」
一気に距離が近くなる。
目の前には目のきついけれど整った顔をした美女が、じっと俺を見つめていた。
そしてくん、と鼻を鳴らして。
「…ふん、いい匂いがするねぇ。
人間臭さの混じった、霊力の高い…食欲をくすぐるねぇ」
「だ、荼枳尼天さま!!」
スズが叫んで、ようやく俺は狙われてるのだと気付いた。
「そんな怖い顔しなくても、食やぁしないよ、ただ興味があるだけさ」
“こえーなぁー”
とんっと肩を軽く押され、距離を離される。
…やば、俺食われそうだったんだ。
女の子になってるから狙われる可能性は十分にある、これから気をつけなくちゃ。
「お戯れでもおよしください、荼枳尼天殿。
それより、」
ミサキくんが視線を幼女へとうつす。
幼女はつまらなそうに口を尖らせたままで、視線をこっちに向けようともしない。
「これについての説明をお願いします」
「こいつかい?こいつは…」
「僕は天探女(アマノサグメ)だよ」
幼女自ら口を開いた。