妄想世界に屁理屈を。
「はあ…」
しかし、なぜ相手が柚邑。
よりによって人間で、それで今は女で、あと好きな人がいる。
ミサキくんとかの方がずっといい人で恋愛にはうってつけなはずなのに。
「そんなこと言われたって…ぼくの好みとあんたの好みは違うんだからー」
「そうだよね、ごめん」
困ったように笑われた。
「…でも、まあ…日本の恋のキューピッドからするとね
恋愛ってのはやっぱり本能がするもんだからさぁー、歯止めがきかないんだよー」
湯気と一緒に間延びした声が運ばれてくる。
心地よいそれに酔ってると、思考がまとまって、考えが分かりやすくなる。
彼女の能力のひとつだろうか。
「たとえばお腹空いたーってのと同じってこと
極限状態まで空腹が酷いと、目の前のご馳走を我慢しろなんて無理でしょー?
それとおんなじ。
惹かれるのは本能さ、本能は自分の意思とは全く別の核の部分一一コントロールなんてできないんだよー」
ペラペラとわかりやすい説明をしてくれる。
ロマンチックというよりかは哲学的な気がする。
「あんたの何かが柚邑に惹かれたんだ。
その魅力を好きになった」
どこだろう。
私が好きになった場所は。
私とアカネさまの中を近いものにしようと奮闘してくれたとこ?
それとも自分の身を顧みずに私を助けてくれたこと?
私という身分を取っ払って見てくれたとこ?
あ、わかった。
「一一全部だ」
全部、私の好きなとこだ。
思い出すと胸がくすぐったいけど心地よいものだし、何しろ
「柚邑の顔が浮かぶのが、嬉しくって仕方ないの」
顔の筋肉が動くの、勝手に。
心まで温泉に入ってるようにポカポカして、浮いたようになるの。