妄想世界に屁理屈を。




「食べちゃったの、天若日子くんを」




ペロリと舌舐めずりをして。

「は…?」


「別にカニバリズムとかじゃないよー?

霊的に言うなれば、捕食、融合に部類するかなー

しかも互いに和解の上だからね
じゃなきゃただの鬼が天つ神…しかも天照の孫だっけ、ひ孫だったかな、それを食うことなんてできないでしょー」



「なんでそんなことしたの?」


あの分家の荼枳尼天は、地位を欲して自身の女の心臓から霊力を得る、という性質を使って下剋上を企んだ。

それと同じで地位を欲したのかな。


荼枳尼天は言うなれば人工的に作られた神々で、神々が発生する原理を強制的に強いてできた養殖物なため、霊力が薄かった。

知能レベルも純粋でオリジナルな神々と比べられないほど低く、逆に言えばそれが相成って私たちでも野望を止めることができた。


このように神々にも位があって、質や状況によって左右される。



正直に言えば鬼の神格は低い。


使い捨てのコマのような存在で、人間の邪心などからできたとされるため神位はあやふや。

なぜかというと、人間の心はすぐに動かされて説得などで簡単に鬼は消えてしまうとあるから。


かつて鬼門を神格化しただけのものだった鬼は色々な進化をたどり、いまや根の国の神々などに使える乞食のような表現や、ただの悪意ある悪者といった役柄のために用いられたりするものとなった。


そんな鬼が天つ神を食べることができるわけがない。

しかも神々に仕える鬼はとくに下剋上ができないようにプログラムされて作られてるから、霊力を手にしても無意味だ。


意味が、意図がわからない。


「天若日子はね、下照姫の色香という術に惑わされてただけなんだ

本心はずっとある女の人にあって、葦原の中つ国に天下るときに約束したんだ


『心配しないで、必ず帰ってくるから
一年後にまたここで会おう
この川のほとりでまっていて』


だけど下照姫に囚われた彼は、その約束の場所へ行くことはできなかった…」


そう言って悲しいのかなんなのか読み取れない顔をして、笑った。


まるで己の気持ちをちぐはぐにするように、皮を笑顔に。



「あいつ三回も約束を反故にしたみたいだよー?

死ぬ直前、ようやくあいつは思い出した。
術が解けたんだ

んで、たまたまいたぼくにこう言った」




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