妄想世界に屁理屈を。
私で言っちゃえば百瀬ちゃんに会うために柚邑になりすますということ。
好きな人が死んだというだけでも辛いのに、それになりすまして愛を伝えるなんてどれだけ辛いか。
「…確かに辛いけどさー
別に後悔とかはしてないし、僕は満足してるんだー」
すっ、と作り物の空を見やる。
ここの露天風呂は異界一一実際のものとは流れる時が全く違う。
偽物の星が瞬く中、彼女は天の川を思い出すように目を閉じて言った。
「言うなれば僕は七夕の神になったんだ。
だからよく恋人たちの願いをうるさいくらい耳にして、多種多様な生き様を学んでる。
僕は最後まで結局想いを告げることはなかったんだけど、それでも僕が天若日子を好きだったことに変わりはない。
むしろ想いを伝えなかったから、彼がいま僕の中にいるんだよ
それってすごい幸せなことじゃない?
友達としてでも信用されて、からだを預かることが出来てるんだ
僕はもう満足だよ」
そりゃあそうだ、自分に好意を寄せている女に女の面倒を頼むなんて言えない
言わなかったから今があるわけで一一
「別に誰にも理解されなくっていいんだー
だって愛の形なんて人それぞれじゃない?
模範解答なんてないんだから」
満足げにそう言って、笑んだ。
その姿は私よりも歳上で、
胸が痛くなるほど切なかった。