妄想世界に屁理屈を。
案内された河川敷に行くと、ニットと短パンという2月にはだいぶ寒そうな格好のアカネと、全身真っ黒の黒庵さん、オフィスカジュアルの鸞さんに、可愛い子供服を着せてもらってる子供姿の苑雛くんがいる。
アカネは黒庵さんと一緒にアパートを借りて暮らしている。
来年にはシロことタマが復活する。そのための準備を色々しているみたいだ。
黒庵さんは由美さんと別れたらしく、どうやら子供ができたと由美さん側が騒いだらしいが、虚言だということで話は落ち着いたらしい。
鸞さんと苑雛くんはいつもどおり、毎日なかよくーーではなく、自分たちがいなかった頃の荒れに荒れた神々たちを制裁するのに毎日切磋琢磨してるそうだ。
「柚邑ー!みてー!これ!ケバブ!」
「なんで!?!?バーベキューだよね!?」
「だありんが作ってくれた」
「民間人がつくれるものなのか…」
引くほど本格的なケバブをけずって野菜を挟んで渡してくれる。バーベキューだよな。
ちゃんと肉とかも焼いてはいるが、鸞さんは河川敷と苑雛くんの絵がたまらないらしく、高そうな一眼レフで連射してるし、バーベキューじゃないかもしれない。
ケバブをかじってると、スズが隣にやってきた。
「たのしい?」
「美味しいよ」
「そっか」
距離感を測りあぐねてるのか、どうしたのかと聞こうとして。
「あのね、柚邑。好きだったよ」
風の強く吹いた時、消え入りそうな声でいった。
きちんと聞こえてしまったが、俺はどうしていいのかわからずーー
「ありがとう」
とだけ返した。
過去形ということは諦めもついてるということだ。
俺は百瀬が好きなんだから。
申し訳ないなと心が痛みつつ、人間嫌いのスズがそんなことを言うなんてと驚いていた。
風がまた強く吹いて、スズがポニーテールを揺らしながら満面の笑顔で言った。
「どういたしまして!誇りに思ってよね!」
相変わらずのツンデレキャラで、スズらしくて可愛かった。
「おーい柚邑ーー肉焼けたぞー!」
アカネがそう呼ぶので、「行こっか」とスズに呼びかけ、一緒に向かう。
黒庵さんの焼いた肉は絶品だったが、アカネの焼いた肉は焦げ焦げだった。
「柚邑ー!たのしーかー!」
缶ビールをいつの間にか開けてるアカネが問いかけてくる。
「うん!」
こんな日常がずっと続くように
俺はそう神様に願い続けて、生きていく。