幸福
No.001 籠の中の鳥
 私は、自由を知らない。籠の中の鳥。背中に生えた翼は、小さな籠の中を飛び回ることしかできない。
『自由になりたい』私の願いは届かない。

ピピッピピッピピ…
朝がきた。重い瞼を開いて、体を起こす。
歯を磨いて、顔を洗う。
服を着替えて、学校に行く準備を整え、リビングに向かう。

「おはよう。」
お父さんはいつものように元気よく「おはよう!」と返してくれる。
「おはよう。」
お母さんも忙しそうに朝食の準備をしながらも、笑顔で「おはよう!」と返してくれる。
私は一人っ子で、お父さんからもお母さんからも愛されて育てられている。
時に、その愛は重すぎて、私は疲れてしまう。

何不自由なく、ほしいものはだいたい手に入る。

ただ手に入らないものは自由に飛び立つ翼。

「璃子ー。今日はピアノだから急いで帰ってくるのよ。」
お母さんは優しい声で言う。

「わかった。」
笑顔で返す。
“今日は”って言っても、急いで帰ってくることについてじゃなくて、ピアノについて。
明日はバレエ、明後日は日本舞踊、その次は茶道。とにかく一週間の内6日はお稽古。

でも、お父さんとお母さんは「璃子の為。」って言うの。

あたしの過去も現在も将来ですらも、親の手のひらの上。

放課後、みんなの楽しそうな声が聞こえる。
「今日、帰りカラオケ行かない??」
「行くー!」
「みんな行けるの??」
「あたしパス!!彼氏とデートなんだ♥」
「いーなー♥♥」
「ごめん!!あたしもパス!今日バイトがあるから!!」
「えーさぼっちゃいなよ!!あんたいつも仮病つかって休んでんじゃん!!」
「ダーメ!!今日はお気に入りの大学生とラストまで一緒の日だもん♥だから、カラオケはまた今度ね♥」
「そっか!じゃあ、4人だけでいこっか★★」
「賛成!!」

放課後のカラオケもデートもバイトも、ぜーんぶ私には無縁の話。

最初は誘ってくれた友達も今では誘ってくれない。
それに誘われても断る以外の選択肢はない。

週に一回のお稽古のない日は、日曜日で、放課後なんてない。

それに、だいたい家族で過ごすことになってる。

お父さんは土曜日と日曜日が、休みで、土曜日は毎週ゴルフ。だから、昔から日曜日は家族サービスの日。

幼い頃は嬉しかった家族サービスの日も、今はイラナイ日。
高校2年にもなって、毎週日曜日は、家族でお出かけなんてどーでもいい。
もっと友達と遊びたい。

こんなだから、あたしには親友とか、相談できる友達とか、本音で話せる相手なんていない。

誰にでもいい顔をして、いつも元気で、悩みなんてなさそうな子。
それが、人から見たあたし。

なんでもひとりでできて、聞き分けがよくて、手の掛からない良い子。
それが、家族からみたあたし。

本当は、嫌いな人だっているし、喋りたくない人だっている。元気のないときだって、悩みだっていっぱいある。

ひとりじゃ無理だって思うことだって、やるしかないからやるだけだし、反論したってあたしの意見は通らないことだってわかってるから、反論するだけ無駄だと思って言わないだけ。

だーれも私の事なんてわかってない。
「璃子はいいよね!おとうさんだってハンサムだし。お母さんだって美人だし。家もお金持ちだから、ほしいものだって、なんでも買ってもらえるし!だから、バイトなんてしなくていいから、楽じゃん!あたしも、璃子みたいに幸せになりたいなぁ★」

おとうさんの事ハンサムだなんて、思ったこともないし、お母さんの事美人だなんて思ったこともない。家がお金持ちだって、そんなのいらない。普通でよかった。
普通でいいから、自由があって、バイトだってやってみたかった。自分で稼いだお金でほしいものとか買ってみたいのに。
バイトができないから、しかたなくほしいものは、親に買ってもらうしかない。楽なんてない。毎日どれだけの時間をお稽古にしばられてると思ってるの??

あたしのどこが幸せなの??
わからないよ。








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