シンデレラは夜も眠れず
9、年貢の納め時(九条司視点)
「一晩だけよ」
あの女はそう言った。
ホテルのバーで彼女を誘った時の事だ。
口説く必要もなかった。
「これから僕の部屋で飲み直さないか?」
その返事があの言葉。
あまりにもあっさりOKしたので、こちらが拍子抜けした位だ。
だが、僕としてもそれは有り難かった。
その瞬間を楽しめればそれでいい。
永遠など望まない。
従兄の健留は生涯の相手を見つけたが、僕はまだまだ遊びたい。
嫁が欲しいと言ったのは、綾乃ちゃんへのリップサービス。
綾乃ちゃんの親友の美樹は、僕にとって後腐れのない女のはずだった。
身体の相性も良くてあれだけ熱い夜を過ごしたのに、朝起きるとベッドには僕しかしなかった。
昨夜の事は夢であったかのように彼女のいた形跡が全くない。冷たいベッド。
何なんだ、この虚しさ?
ぽっかり胸に穴が開いたような……そんな感覚。
その理由が知りたくて朝食の席でまた彼女に声をかけようと思っていたのに……。
「美樹ですか?9時の飛行機で京都に戻りましたけど」
綾乃ちゃんがちょっと申し訳なさそうに言う。
「……え?」
暫く茫然としてしまった。
たぶん、ショックだったんだと思う。
「司さん?美樹と何かあったんですか?」
「いや、ちょっと彼女の忘れ物を渡そうと思ったんだけど」
綾乃ちゃんの言葉に、俺は慌てて作り笑いをする。
「美樹は京都なんです。私でよければ美樹の自宅に送っておきますけど」
「う~ん、残念ながら形のあるものじゃなくて。美樹さんの連絡先教えてくれるかな?」
僕の事を警戒していた綾乃ちゃんは、僕が事情を説明すると渋々彼女の連絡先を教えてくれた。
ご丁寧にも健留の前で。
僕は綾乃ちゃんに余程信用されてないらしい。
「綾乃の親友だからな。お前の今までの女達のような扱いをすれば、お前もアフリカに飛ばすぞ」
僕の私生活を知ってる健留も僕を脅す。
目を見ると冗談ではなかった。
「はは……」
乾いた笑いを浮かべ、健留と綾乃ちゃんに別れの挨拶をすると僕はひとまず東京へ戻った。
留守にしていた分仕事は溜まっていた。
おまけに健留はハネムーン中。
メールや電話で彼と連絡はつくが、実質僕の判断で業務が進む。
当然健留の仕事も掛け持ちしている僕の残業時間は増えるわけで、日付が変わるころに帰宅するのが当たり前になってた。
それでも、ふとした瞬間に彼女との夜を思い出す。
艶のある綺麗な長い髪。
すべすべした白い肌。
あの夜の事は鮮明に覚えてる。夢でも幻でもない。
それを何度も何度も頭の中で再現するのだ。
「相当疲れてるな」
思わず自嘲する。
あの夜から10日経つ。
それを把握してる事自体珍しいけど。
自分が限界な気がした。
一晩だけ……。
僕にとっても都合のいい言葉だったはず。
なのに、今……無性に彼女に会いたい。
気づけば秘書にちょっとタバコ吸ってくると声を掛け、新幹線に乗って彼女に会いに行っていた。
あの女はそう言った。
ホテルのバーで彼女を誘った時の事だ。
口説く必要もなかった。
「これから僕の部屋で飲み直さないか?」
その返事があの言葉。
あまりにもあっさりOKしたので、こちらが拍子抜けした位だ。
だが、僕としてもそれは有り難かった。
その瞬間を楽しめればそれでいい。
永遠など望まない。
従兄の健留は生涯の相手を見つけたが、僕はまだまだ遊びたい。
嫁が欲しいと言ったのは、綾乃ちゃんへのリップサービス。
綾乃ちゃんの親友の美樹は、僕にとって後腐れのない女のはずだった。
身体の相性も良くてあれだけ熱い夜を過ごしたのに、朝起きるとベッドには僕しかしなかった。
昨夜の事は夢であったかのように彼女のいた形跡が全くない。冷たいベッド。
何なんだ、この虚しさ?
ぽっかり胸に穴が開いたような……そんな感覚。
その理由が知りたくて朝食の席でまた彼女に声をかけようと思っていたのに……。
「美樹ですか?9時の飛行機で京都に戻りましたけど」
綾乃ちゃんがちょっと申し訳なさそうに言う。
「……え?」
暫く茫然としてしまった。
たぶん、ショックだったんだと思う。
「司さん?美樹と何かあったんですか?」
「いや、ちょっと彼女の忘れ物を渡そうと思ったんだけど」
綾乃ちゃんの言葉に、俺は慌てて作り笑いをする。
「美樹は京都なんです。私でよければ美樹の自宅に送っておきますけど」
「う~ん、残念ながら形のあるものじゃなくて。美樹さんの連絡先教えてくれるかな?」
僕の事を警戒していた綾乃ちゃんは、僕が事情を説明すると渋々彼女の連絡先を教えてくれた。
ご丁寧にも健留の前で。
僕は綾乃ちゃんに余程信用されてないらしい。
「綾乃の親友だからな。お前の今までの女達のような扱いをすれば、お前もアフリカに飛ばすぞ」
僕の私生活を知ってる健留も僕を脅す。
目を見ると冗談ではなかった。
「はは……」
乾いた笑いを浮かべ、健留と綾乃ちゃんに別れの挨拶をすると僕はひとまず東京へ戻った。
留守にしていた分仕事は溜まっていた。
おまけに健留はハネムーン中。
メールや電話で彼と連絡はつくが、実質僕の判断で業務が進む。
当然健留の仕事も掛け持ちしている僕の残業時間は増えるわけで、日付が変わるころに帰宅するのが当たり前になってた。
それでも、ふとした瞬間に彼女との夜を思い出す。
艶のある綺麗な長い髪。
すべすべした白い肌。
あの夜の事は鮮明に覚えてる。夢でも幻でもない。
それを何度も何度も頭の中で再現するのだ。
「相当疲れてるな」
思わず自嘲する。
あの夜から10日経つ。
それを把握してる事自体珍しいけど。
自分が限界な気がした。
一晩だけ……。
僕にとっても都合のいい言葉だったはず。
なのに、今……無性に彼女に会いたい。
気づけば秘書にちょっとタバコ吸ってくると声を掛け、新幹線に乗って彼女に会いに行っていた。