わきみち喫茶
またのお越しを
カップを磨く手を止めて、カウンターの真ん中に広がる不思議な光景に小さくため息をつく。
うっすらと色づいた頬をかきながら、恥ずかしそうにうつむく青年と、まるでその沈黙を気にしていない様子で黙ってお茶を飲む女性。
「あっ……えっと…」
ようやく声を上げたかと思ったら、か細くて何を言っているのかよく聞き取れない。
「僕…この店のマスターの、小向 晴人(こむかい はると)といいます」
ようやくの自己紹介に、ふうっと小さく息を吐き出す。
恥ずかしがり屋で接客が苦手なのは昔と全く変わらない。
これでは“彼女”も心配になるわけだ。
でもここは彼のために心を鬼にしなければならない。
「そうだ晴人君、せっかくですからここで少しお客様の相手をお願いできますか?私は……買い出しに行ってきますので」
勢いよく振り返った彼の顔がどこか泣きそうだった。
「そ、そんな!僕には無理ですよ」
何とも頼りない声に、知らずに深いため息が漏れる。
「やってみないとわかりませんよ、それにここは君の店なんですよ?晴人君」