わきみち喫茶
我慢できずに声を上げると、女性が不思議そうな顔をして首をかしげた。
「……コーヒーじゃ、ないんですか…?」
それはティーポットを持って来た時から疑問に思っていたことだった。
「あっ、もしかして紅茶はお嫌いですか?」
申し訳なさそうに眉を下げる女性に慌てて大きく首を振る。
「いえ!そういうわけではなくて、ただ…てっきりコーヒーだとばかり思っていたので」
悲しげに眉を寄せていた女性は顔を上げてクスっと笑うと、カップを並べてそこにポットの中身を注いだ。
一直線にカップへと吸い込まれていくのは琥珀色の液体。
すっきりとしたレモンの香りがふわっと鼻先をかすめていく。
「もしお嫌いでなければ、どうぞ召し上がって見てください」
笑顔で差し出されたカップの中では、かすかに濁った琥珀色が揺らいでいる。
華奢なカップの取手をそっと掴んで持ち上げ、爽やかなレモンの香りをスッと吸い込む。
そして口元にカップを近づけそっと傾ける。
鼻腔を通り抜けていくレモンと、程よい生姜の苦味…そして、かすかなオレンジ。