召しませヒメの甘い蜜
「ごめんなさい、ご迷惑ばかりおかけして」
少し涙目になった彼女を見て、神野は口調がきつくなり過ぎたことを後悔した。
(彼女のことを心配しなかった訳じゃないんだが)
「先に手当てをしてしまいましょう、こちらです」
自分に言い訳するように、彼女の手を引いて立たせると、そのまま救急箱へと誘った。
「じっとしていてください」
素早く消毒を済ませると、神野は起用に水絆創膏を彼女の指先に塗り始めた。
「お上手なんですね」
されるがままに大人しくしていた彼女が神野の手先をじっと見つめながらしみじみとそう言った。
「僕にも修行時代がありますからね。
慣れない最初は誰でも傷だらけですよ」
「そうなんですか?」
「姫野さんもじき慣れますよ」
あくまで社交辞令で交わした会話にも、
「わたくし、頑張ります!」
真っ直ぐに神野を見て笑う姫野に偽りの気持ちは微塵もない。
「さ、これで当面は沁みない筈です。
作業に戻りましょうか」
「はい」
終始素直な彼女に好感を持つも、そのあまりの不器用さに神野は驚くことになる。