召しませヒメの甘い蜜

彼の料理人としての評価より、男としての彼の魅力に言い寄る女も多かった。

その見返りも大きかったことは言うまでもない。

当然、彼は男としての自分の容姿を武器にする術を見につけた。

こうして、情けをかけるのも仕事のうち。

彼女が自分に好意を抱いたとしても当然のこと、寧ろ好都合だとさえ思っていたのだ。

「姫野さん、パン粉は卵を付けた後と説明しましたが」

「えっ、あらほんとです、わたくしったら……」

「トマトは湯剥きをしましょう」

「湯剥きって何でしょう?」

「ニンニクはみじん切りです」

「みじん切り?」

「姫野さん、みじん切りは細かく材料を切ることです。

この教室は基礎講座ではありませんので、そこのところは自習されていただかないと」

「えっ? 誰にでもできるって書いてありませんでしたか?」

「それは、プロの料理が素人でもできるというレベルの意味です」

「あぁ〜、姫野さん! 油をそこへ注いでは……」

衣を付けたカツをフライパンに乗せ、そこへ油を注ぎ入れるのを見た時には、さすがの神野も絶句した。
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