召しませヒメの甘い蜜
「姫野さん」
「はい」
ここまで来て、神野は何かおかしいと思い始めていた。
こんな手のかかる初心者が毎回この講座に混じっていたとは思いがたかったのだ。
今日に限って。
「もしかして、姫野さんは今日が初めての受講ですか?」
「いえ、三度目です」
「三度目? おかしいですね。 こんなに手のかかる生徒さんがいたら毎回気が付くはずなんですが……」
「あの……、いつもは友達と一緒に参加してるので」
「お友達?」
「はい、南野桜さんです。今回だけはどうしても都合がつかなくてお休みなんです」
神野は参加者名簿を捲って確かめた。
確かに……、南野桜、今回は欠席だ。
「いつも南野さんが助けてくれていて……」
「なるほど」
「でも……、今日はわたくしも一人で頑張らないと、って思って」
「わかりました。今回は、僕が姫野さんのサポートをしましょう」
「えっ! ほんとうですか、ありがとうございます」
「そのかわり、教えたことはきっちり覚えて帰っていただきますよ」
「はい、先生!」
何度駄目だしを食らっても、素直に従う姫野の姿を可愛いと思う神野であった。