召しませヒメの甘い蜜

神野は一人離れて席に着く姫野の姿に目をやった。

背筋を伸ばして慣れた手付きでナイフとフォークを操り、自然な様子で料理を口に運んでいる。

その優雅な動きに目を奪われた。

その姿からは、料理を作っている時の未熟さ不器用さは微塵も伺うことはできない。

(生粋のお嬢様か……)

ふと視線を上げた彼女と目が合った。

躊躇い勝ちに小さく会釈を返す姫野。

その謙虚な姿も育ちの良さが成せる技なのか。

所謂セレブ、と呼ばれるご婦人達の棒弱無人な振る舞いに慣れていた神野にとって、それはあまり新鮮な出来事だったのだ。


姫野麗。


いったい彼女はどういう女で、何の為にこの料理講座に通っているのか。

興味を掻き立てられずにはいられなかった。
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