召しませヒメの甘い蜜
(いったい、二人はどういう関係なんだ?)
神野の胸に浮かんだ疑問を寄せ付けないかのように、姫野は手を洗い、作業に取り組み始めた。
その姿勢はあくまで優等生。
だが、実際の手付きを見れば、それが彼女にとっての非日常であることがひしひしと見て取れた。
本日のメニューは真鯛のカルパッチョとホワイトアスパラと小エビのグラタンだ。
「では、ヒメには真鯛のスライスをお願いします。
あ〜、それともこちらのホワイトソースをお願いした方が良いかな?」
「切るのは先週で結構慣れたので、お魚のスライスに挑戦してみようかな? ね、神野シェフ」
「えっ? 僕ですか?」
驚いたことに、姫野が神野に縋るような視線を送っている。
名指しでご指名じゃ断れない。
「一度だけですよ、お手本をお見せします」
「はい!」
返事だけは、まさに優等生だ。
「こうやって、手で魚の身を軽くおさえつつ包丁の角度を緩くして挟み込むようにスライスします。
舌触りが滑らかになるよう、なるべく薄く造るのがミソなんです」
「見てると、とても簡単そうですね。
では、いざ、挑戦!」
「うわぁっ、ひ、姫野さん! その角度じゃ手が切れるっ!!!」
「えっ? 駄目ですか? じゃ、これではっ?」
「それじゃ余計に危ないっ!!!!」