召しませヒメの甘い蜜
「でも、総一郎さまはお爺様のお友達なのでしょう?」
「本当は、彼の息子さんの子供、つまり麗と同じ彼の孫にあたる方が許婚のはずだったの」
「だった?」
「総一郎氏のご子息、淳一郎氏は数年前の事故で、ご家族共々お亡くなりになってしまったのよ」
「亡くなった?」
「詳しい報道はされていなくて、事情はよくわからないのだけれど。
プライベート上での事故ということで、葬儀もお身内だけで執り行われて。
わかっているのは、息子家族を無くした総一郎氏が、一人ぼっちになってしまわれたってこと。
だからあえて、昔の約束を反故することなく、自分が代わりに貴方を妻にしたいと申し出られて……」
「でも……」
「姫野家としては山上家の申し出を断るわけにはいかなくてな。
若いお前が七十過ぎの老人に嫁ぐことになるとは……、わたし達にとっても直ぐには納得いかなくて。
だから、今すぐにでも、という彼の希望を、麗が大学を卒業するまで待って頂いた」