召しませヒメの甘い蜜

「でも、総一郎さまはお爺様のお友達なのでしょう?」

「本当は、彼の息子さんの子供、つまり麗と同じ彼の孫にあたる方が許婚のはずだったの」

「だった?」

「総一郎氏のご子息、淳一郎氏は数年前の事故で、ご家族共々お亡くなりになってしまったのよ」

「亡くなった?」

「詳しい報道はされていなくて、事情はよくわからないのだけれど。

プライベート上での事故ということで、葬儀もお身内だけで執り行われて。

わかっているのは、息子家族を無くした総一郎氏が、一人ぼっちになってしまわれたってこと。

だからあえて、昔の約束を反故することなく、自分が代わりに貴方を妻にしたいと申し出られて……」

「でも……」

「姫野家としては山上家の申し出を断るわけにはいかなくてな。

若いお前が七十過ぎの老人に嫁ぐことになるとは……、わたし達にとっても直ぐには納得いかなくて。

だから、今すぐにでも、という彼の希望を、麗が大学を卒業するまで待って頂いた」

< 2 / 31 >

この作品をシェア

pagetop