召しませヒメの甘い蜜
「なんだか、余計にお手間とらせてしまったみたいで御免なさい」
あまりに危なっかしい手付きに業を煮やした神野は、結局、姫野の手に自分の手を添える形で補助を申し出たのだ。
何度か、繰り返すうちに姫野もコツをつかんだらしく、今はこうして神野の監督のもと刺身の薄造りを見事にこなしている。
「さすがヒメ、やればできる!」
その隣りで南野が彼女を賞賛の目で見つめている。
「わたくし、料理をする機会に恵まれませんでしたの。
こんなに楽しいものだったなんて知らなくて。
ほんと、残念ですわ」
姫野は神野が後ろに回って背中から抱きかかえるような形になったというのに、頬一つ赤らめるでもなく、淡々と作業をこなして見せた。
その集中力たるや見上げたものだ。
確かに、のみ込みは早い。
頭は悪くなさそうだ。
お嬢様という人種は、とかく見た目だけで中身が伴わないものだ、と偏見の目で見ていた神野はそんな自分を恥かしく思った。
「では、切れた刺身をこのガラスの皿に敷き詰めるように並べて下さい」
「ガラスの器なんて素敵ですわ」
姫野は嬉々として楽しそうに盛り付けに集中していた。