召しませヒメの甘い蜜

姫野の盛り付けの手際は見事なものだった。

包丁捌きが覚束ないのは、彼女の言うように単に経験不足ゆえだったのか。

それとも彼女の天性の芸術的センスがそうさせたのか。

姫野はガラスの器に真鯛の薄造りを綺麗に敷き並べ、その上に薬味を彩りよく散らした。

先ず、一切の迷いを振り払った手際の良さに目を奪われた。

そして、その上に、ソースのマリネ液で美しい線を描いた盛り付けは、神野が常に心がける目でも味わう料理の真髄を体現させたものだった。

(俺でもこう潔くは出来ないな……)

「完成です」

上気した頬が赤らんで、彼女の気持ちの高揚が見てとれた。

美しいものは美しい。

盛り付けも、彼女も。

そこに私情を挟む余地は無い。


「美しい……」


神野の心の声が思わず漏れた。
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