召しませヒメの甘い蜜
「気に入っていだだけて嬉しいです。
わたくし、神野シェフのお料理をいただいたことがあって。
お味も勿論すばらしく美味しかったですけれど、その盛り付けの美しさに目を奪われてしまって。
こんなお料理なら、どんなに気持ちが沈んだり悲しいことがあったとしても口にいれて味わってみたくなるんじゃないかしらって。
だから、無理を言ってこの料理教室に参加させていただいたんです」
「えっ、僕の料理を?」
「ええ。
なので、この盛り付けのヒントもきっとわたくしの記憶の中にあったものかもしれません」
真似っこですね、とはにかむ様に笑う彼女は悪戯を見咎められた幼子のように愛くるしい。
一度見ただけでそれを再現できるとしたら、それはそれで凄い才能だとも言えるわけだが。
彼女はそんなおどけた仕草で、全てを軽く受け流してしまった。
「そんな風に思っていただいたのだとしたら、僕としても料理人冥利に尽きますね。
僕は常々、料理は目でも味わうべきものだ、と思っているので」
「まぁ!
やっぱりそうでしたのね!」
わたくしの直感もまんざら捨てたものじゃなくってね、と姫野は誇らしげに笑って見せた。