召しませヒメの甘い蜜
「少し考えさせてください。
出店の計画は他にも候補がありますので」
「悪い話じゃないと思うぞ」
「わかっています」
世界各国に支店を持つ祖父のホテルグループに出店叶うということは、身に余る栄誉だということくらい潮にもわかっていた。
だが、それが自分の実力か、と問われると応えに窮するのも確かだ。
(それが俺の望んだことなのか?)
祖父の手の内で踊らされた挙句、若くして命を落とした両親の生き様を見て、自分なりに出した結論だった。
生きたいように生きる。
やりたいことを精一杯やる。
何故それが料理だったのか、と問われると、それは両親との思い出に直結してしまう。
美味しい食事が大好きだった彼の両親。
それは職業柄だったのか趣味の一環だったのかは、今となっては知る術もないが。
潮にとって料理は幸せの証。
だが、その後ろにはどうしてもホテルの影が消えて無くならない。
「お前は料理に専念すればいい。その土壌が広がるだけの話じゃ」
祖父の微笑んだ瞳は、彼の全てを見透かしたようにギラギラと光っていた。