召しませヒメの甘い蜜


「少し考えさせてください。

出店の計画は他にも候補がありますので」

「悪い話じゃないと思うぞ」

「わかっています」

世界各国に支店を持つ祖父のホテルグループに出店叶うということは、身に余る栄誉だということくらい潮にもわかっていた。

だが、それが自分の実力か、と問われると応えに窮するのも確かだ。

(それが俺の望んだことなのか?)

祖父の手の内で踊らされた挙句、若くして命を落とした両親の生き様を見て、自分なりに出した結論だった。

生きたいように生きる。

やりたいことを精一杯やる。

何故それが料理だったのか、と問われると、それは両親との思い出に直結してしまう。

美味しい食事が大好きだった彼の両親。

それは職業柄だったのか趣味の一環だったのかは、今となっては知る術もないが。

潮にとって料理は幸せの証。

だが、その後ろにはどうしてもホテルの影が消えて無くならない。


「お前は料理に専念すればいい。その土壌が広がるだけの話じゃ」


祖父の微笑んだ瞳は、彼の全てを見透かしたようにギラギラと光っていた。

< 28 / 31 >

この作品をシェア

pagetop