召しませヒメの甘い蜜
「なに、今すぐ結婚という事ではない。
大学を卒業したとはいえ、麗はまだまだ世間知らずの子供だ。
わたしとしても、我が姫野グループの仕事を少しでも理解しておいて貰いたいしな」
「そうよね、事業のなんたるかも少し覚えて。
それに家事や家庭の切り盛りについても学ばなくちゃいけないわね。
それに、お料理も習わないと。
山上グループはそれこそ世界的なナットワークの上に成り立っているんですもの、しきたりというよりグローバルな振る舞いが求められるに違いないわ。
お料理にしても日本食だけでなくフレンチ、イタリアン、チャイニーズ、コリアン……、あと何があるかしら?
兎に角、いろんな国の料理に通じている必要があるわ。
麗が作る必要はないのよ、どんなもてなしがあるのか知ることが大切なの」
堰を切ったように饒舌になる両親を見て、麗は二人の動揺を感じてしまった。
今まで黙っていたのは、人並みに自由を謳歌して大学生活を満喫させようとしてくれた両親の思いやり。
(わたしに拒否する権利はないんだ)
絶望に近く彼女はそう理解した。
今まで何不自由なく、美味しい物を食べ、綺麗に着飾って、何の不安も感じることなく育ててもらった。
この恩が、山上総一郎氏との結婚で返せるのなら、これ以上の親孝行はないのかもしれない。