召しませヒメの甘い蜜
総一郎は亡くなった息子夫婦の写真を前に、今日も晩酌の杯を傾けていた。
「なぁ、純一郎、わしは間違っておらんよのう?」
飛行機事故で息子夫婦を一度に亡くした時、正直言って、総一郎自身も生きる気力を失いかけた。
一代で築き上げた山上ホテルグループを、息子の代に引き継ぐ矢先のことだったのだ。
台湾支店の建設予定地を視察に行った帰路でその事故は起きた。
プライベートジェットのエンジントラブルで、機体は一瞬のうちに太平洋の藻屑となって消えた。
機体が墜ちたと推定される場所が中国との排他的経済水域に近かった為、捜索も儘ならず。
もしかしたら二人はまだ生きているかもしれないと、僅かな希望を抱かせたまま探索は早々に打ち切られた。
彼を現実に引き戻したのは二人の一人息子、潮の存在があったからだ。
「わしが願っているのは、潮の幸せだけじゃ。
富や名声などいくらでもくれてやる。
人の幸せは愛する者と生きることだからのう」