召しませヒメの甘い蜜
それは去年、大学卒業祝いに両親に連れられて行った銀座の有名イタリアンレストラン「ボーノ・ボーノ」での出来事。
驚き諦めたのは一瞬で、その後は目まぐるしい生活の変化に我を忘れ、現実から目を背けてきた。
あれから1年、麗は姫野グループの経営企画室に席を置き、グループ事業の実情と今後の展望について学んだ。
知れば知るほど、両親が彼女に山上氏との結婚を強いた理由がわかる。
本業のホテル事業も世界展開を邁進しているし、関連事業も拡大傾向。
国内にいくつかのリゾートホテルを有するだけの我が姫野グループと山上グループでは、その規模が蟻と像くらいに違う。
機嫌を損ねたらひとたまりも無い。
姫野グループが崩壊するということは、姫野家が路頭に迷うだけでなく、そこで働く何百人もの従業員をも路頭に迷わせることになる。
両親の決断は正しい。
(わたしにだって、この会社を守る義務がある)
麗はそう自覚した。