召しませヒメの甘い蜜
◆超絶不器用娘
ドン、ガラガラ……、グワングワングワン……
「きゃぁ〜っっ!!」
「姫野さん、今度はなんですか」
本日もはや三度目の彼女の悲鳴に、神野潮はさして驚きもせず彼女のキッチンテーブルへと足早に近づいた。
ここは、イタリアレストラン ボーノ・ボーノの主催する公開料理講座「誰にでもできる美味しいイタリアン」の教室。
銀座の人気イタリアンレストランの人気メニューが作れるとあって、セレブ主婦達で賑わっていた。
今日のメニューは、ミラノ風ポークカツレツとポテトサラダ。
冷製ソラマメのスープとデザートのティラミスが店からサービスで提供され、教室後に自分の作った料理と共にランチタイムとなる。
一講座参加費が五千円と高めだが、シェフが直々に教授してくれるとあって人気を呼んでいた。
レストランが料理講座を主催するには大きな目的が二つある。
一つ目は新規の顧客開拓。
二つ目は店の知名度の向上。
広く生徒を募集するとは言っても、実際は固定客からの紹介による口コミで生徒は集まってくる。
ボーノ・ボーノくらいの人気レストランともなれば、顧客は政治家や実業家、医者や弁護士、所謂セレブと分類される上層クラスの人々が多い。
目の前でアタフタと自分の失態を取り繕おうと慌てているこの娘、姫野麗にしても、実際それなりの家の箱入り娘に違いない。
どんなにはた迷惑な生徒であったとしても、対応はあくまで冷静に、かつスマートにしなくてはならない。