この空の下で
 雄治がもとの203号室に戻ると、もうすでに八時を回っていた。起きた時間から既に一時間以上が経過しているのだ。雄治は急いでカーテンの内側に入った。

 そしてすぐに目に入ったのは、昨日、雄治と話した医師だった。医師は雄治がさっきまで座っていた椅子の隣の椅子に座っていた。そのすぐ側に芳江がさっきと変わらない状況で座っていた。医師が雄治に気付いた。

「あっ、来ましたね」

 そう言うと、医師は雄治に座るよう、隣の椅子を見た。

 雄治が椅子に腰をかけると、医師は話を始めた。

「古葉さん。昨日の話を覚えていますね」

「…はあ」

 雄治は期待できないような声で、ため息と一緒に出た。

「えー、まず…話はそれますが…本当に申し訳ありません」

 医師は深々と頭を下げた。芳江は聞いていないような顔で、ボーっと外の雲を見つめていた。しかし、芳江が雄治に強い口調で言った。

「違うわ、私が悪いの。私が早産なんかするから…だけど嬉しかった。雄治があそこまで喜んでくれたんだもの…これは産まなきゃって思ったけど、無理だったわ。私、体だけは昔から弱かったでしょ。いつもより健康に気をつかったけど…」

 芳江はチラッとこちらを見る。そして話を続けた。

「けど、耐えられなかった、私には。突然腹痛を感じたら…」

 芳江は一つ呼吸をつく。

「私、そのまま破水したの…二人の子供を中に入れたまま。私、二人も殺したの、未熟児の状態で。出産した時は既に生き絶えていたわ。あの時出さなかったら私の方が…死んでいたかもしれないの。どうしても私達の子供が、欲しかっただけなの」

 その時、芳江の目から頬へ、白い一筋の光が走った。

「ごめんなさい…本当にごめんなさい。こんなんじゃ、天国の子供達に顔を合わせられないよね」
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