この空の下で
 夕陽は薄くなり、教室から差し込む光を頼りに作業を進めた。教室の中でやればいいのだが、移動が面倒くさい。オレは相変わらず作業に集中できず、彼女ばかりを気にしていた。

 しかしそんな時間も、完全下校のチャイムが告げる。外から差し込む光もなくなり、教室からの光が廊下でゆらゆらと揺れていた。

 時間が時間なので、オレは彼女と目をあわせないように何気ない口調で言った。

「いいよ、そこまでで。今日はありがとう」

 彼女は軽くうなずいて、作業に使った道具や材料を片付け始めた。オレもきりのいいところで作業をやめ、片付け始めた。

 教室に入り、素早く片付けるべき場所へと片付ける。彼女もオレに続いて、同じように片付けた。そしてバッグを肩にかけ、電気のスイッチの前で止まった。その姿を見た彼女は、急いでバッグを机からひったくって、教室を去った。オレも電気を消して、彼女を追うようにして教室を出た。


 昇降口で、初めて彼女の真横に立った。それは、靴を下駄箱から取り出そうとした時に、ただ彼女から寄ってきたのだった。オレはただ立っていただけ。その時は本当に心臓がはちきれそうなほど緊張し、背筋には凍るほどの冷たい汗が流れた。本当に凍ったかのように、体はまるっきり動かなかった。なぜだか分からなかったが、彼女も動かなかった。その間は彼女について思い巡らした。何度も何度も考えた。そして長い二人の金縛りが終わり、彼女が離れて靴を履き替えた。オレも靴を履き替えて、刻々と闇が迫っている外へと出た。

「ねぇ、一緒に帰らない?」

 オレは暗がりから聞こえる方に目を凝らした。言うまでもないが、その声の主は法月であった。
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