この空の下で
 法月がどこかにいないかと、辺りをきょろきょろしながら歩道を歩いていると、ある公園に目がついた。そしてぼんやりとした電灯に包まれている公園へと、一人ひっそりと入っていった。

 公園の中を一分ほど歩き回っていると、木のベンチに一人ぽつんと座っている女子を見つけた。彼女は頭を抱え、時々、大粒の雨を降らせた。

 オレはその姿を見て、近寄り難くなった。どう話し出せばいいのか。オレが知るはずがない。

 オレは知らず知らずのうちに、彼女に向かって歩き出していた。

「なぁ、思い出したよ。小学校の頃、五年の時だけ同じクラスだった神村だろ。六年になってからは引越ししたみたいだけど、なんでまた戻ってきたんだ」

 彼女はすっかりしわくちゃになった顔を上げた。

「う…うん」

「もう泣くなって。というより、お前だったのか。ずいぶん変わったな」

 神村に笑みがこぼれた。そして神村はしゃくり声で話した。

「う…うん、私、ちょっと厄介な…病気になって…いて、しばらく…神戸の方に行って…いたんだ」

「ふーん」

 今のオレには、羞恥心や彼女に対する態度というものが、すでに忘れ去られていた。同時に、オレの心境には片思いというものはとうになかった。ただ、懐かしさだけに浸っていたのだ。あまり互いを知らなくても、再会というものは、どんな国境をも乗り越えて、感動を教えてくれる。オレは、今、それに当てはまっている。

 オレは彼女から微笑みをもらった。

「そういえば、ずいぶん変わったな。あの時はけっこう太ってたよな」

「あの時は…四年まで、入院していて…何にもしてなかったから」

「そうか」

 神村のしゃくり声はだいぶ治まり、顔を上げて話せるまでになった。

「それにしても、なんで苗字が違うんだ?」

「あ、それは…理由が分からないけど、私が中学校に入学したら、父さんの姓から母さんの姓に変えるって、結婚当時から決めてたみたい」

「ふーん」

 オレは質問を続ける。

「で、なんで今日は一緒に帰ろうとしたんだ?」

 神村はオレを強張った顔をしてみた。そして袖で涙を拭いた。

「馬鹿」
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