この空の下で
 その後は、当然のことのように、彼女を送っていった。

 そしてそれから、当たり前のように、家が近いこともあって、彼女と毎日帰るようになった。なぜなら、彼女は弓道部に加入しており、終わる時間が同じだからだ。

 オレと法月は、知らずのうちに、彼氏彼女の関係になっていた。

 しかし、彼女は高校卒業間近に、今まで治まっていた喘息が再び発病したことがあって、神戸の病院に入院することになった。運よくその病気は、高校の授業の全過程を終えてから発病したので、卒業をすることができた。しかし卒業式には出られない。オレの前では嘆き悲しんでいたが、オレや友人の周りではそんな姿を見せなかった。オレはそんな彼女を見るたびに、心が痛んだ。

 そして月日は流れ、彼女が引っ越す前日になった。それは彼女の送迎会の帰りのこと、もう外は闇にのまれていた。


「いよいよ明日だな」

「…うん」

 吐く息はまだ白かった。月が公道をずっと先まで照らし続ける。

「どんな気持ち?」

 法月は眉間にしわを寄せた。

「やだ…行きたくない」

「そうか」

 オレたちは寒い空気の中をずんずんと突き進む。決して後ろを振り向かずに。

 そしてしばらくの間、夜が沈黙で閉ざしてはいたが、突然、季節はずれの雪が降り出したことで、二人の口はやわらかく開いた。

「雪…」

 法月は足を止め、空を見上げた。雪は彼女の頬について、その白い頬に吸い込まれるように溶けていった。

 オレも足を止め、法月の顔をじっと見つめる。彼女の顔は、寂しさを物語っているように見えた。目の下についた雪が解けて、彼女の頬を滴ると、本当に泣いているように見えた。法月はその涙をぬぐうと、オレが見ていることに気が付いた。

「ん、何かついてる?」

「いや…なにも」

「そう」

 法月はうつむくと、顔を手で覆い、突然泣き出した。

「どうしたんだ?」

「だって、だって…私、私…」

 顔を上げると、口を押さえたまま、法月は眉間にしわを寄せて、発作が始まったように肩を動かした。
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