この空の下で
「もう何も言うな。とりあえず、公園のベンチに座ろう」

 オレは法月を連れて、白くぼんやりと浮かぶ公園へと入った。

 公園の道は、商店街の裏道のように暗く、そのおかげで、時々大きい石を蹴飛ばしてしまう。その石は、寂しそうに立っている、電灯の支柱に当たり、公園中に夜を伝える鐘の音を響かせた。雪はまだ降り続いていたが、電灯の光に照らされ蛍のように宙を舞い、ひたひたと地面の上を歩く景色は、とても美しかった。

 オレは電灯近くにあるベンチに法月を腰をかけさせ、その右側に自分も腰をかけた。

「ありがと…」

 法月はまだ涙を流していたが、だんだんと落ち着きを取り戻しつつあった。しかし何も話そうとはしなかった。オレも口は閉ざしたままであった。

 そのまま沈黙が続く。それを遮るかのように、しんしんと雪は降り続ける。二人の間には二人の手が握られていた。暗闇はいっそうに濃くなっていく。しかしそんなことに気が付かず、二人は目の前の一点から目を話さない。

 オレは、そのままでずっといたいと思った。しかし、彼女はそんな感じには思えなかった。なぜだろうか。彼女のことを思うと、非常に胸が痛んだ。今を幸せに過ごしているはずなのに、今まで感じたことがない苦痛を感じていた。

 彼女は徐々に顔を上げた。

「少し落ち着いたか?」

「う…うん」

 法月は手を俺の手の上に重ね、強く握った。その時、オレの頬が赤くなったような気がした。

「ごめんね…なんか、私ったら、泣いてばっか」

 法月の頬は、依然、赤く紅葉していた。オレは法月を見ず、暗い空を見上げた。そして体内にたまった気持ちを白い息に変えた。

「そうだな…」

 公園の池を眺めると、白い光が浮かんでいた。時々、小さな波紋ができたと思うと、光の中へと吸い込まれた。

 オレは一度下を見た。ゆっくりと顔を起こし、肩で呼吸をした。

「これから…どうなるんだろうな、オレ達」

「えっ」

 法月はやっと気付いたかのように、オレの方を見た。

「終わるのかな…オレ達」

「なんで?」

 法月のほうを見ると、もう泣いてはいなかった。目は真剣だ。

 オレはまた前方を眺めた。
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