この空の下で
 オレは今無駄な時間を、部屋の壁に寄りかかり、送迎会の日に最後に撮った写真を、ボーっと眺めながら浪費していた。

 こんな回想を、一日に数回する。思い出すたびに、オレの目には、あの時の光景と涙が浮かぶ。もうこれ以上会えないかのような別れ方をしたので、本当にそうならないかを今まで恐れてきた。しかしそれをつなぎとめる希望が、今でも手紙を交換していることであった。しかし、その手紙は大体四日おきに届くのだが、最近は十日経っても手紙は返ってこない。果たしてどうしたものか。オレは自分の思い思いを巡らせるたびに、頭を抱えてしまう。

「あーあ…」

 オレは深いため息をつき、再び写真を眺めた。あの時に戻りたい、オレは芳江と過ごした日々を懐かしみ、また、彼女に会いたいという衝動に駆られた。

 第一志望の大学に現役で受かっても、勉強なんかできなくなっていた。楽しいキャンパスライフのはずなのに、ちっとも楽しくない。理由は明白だが、どうにかしようといくらもがいても、どうにもならない。

 オレは一人部屋にたたずみ、奇跡と幸せが来るのを待つことしかできなかった。

 そして直に、彼女に手紙を送らなくなった。


 芳江といる二年はあんなに早く感じられたのに、この一年は時間の経過がその倍近くに感じられた。

 時々散歩に出かけて空を見上げると、芳江のことを思い出す。芳江もこの空の下で、同じように空を仰いでいるのであろうか。

 空に流れる雲が、芳江の面影を残した。


「あー…」

 オレはいつの間にか重いため息をこぼした。今日は同じようなため息を何回しただろうか。
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