この空の下で
 雄治は唖然としたまま、じっとその話を聞いていた。医師は首の後ろを掻く。

 しばらく病室内に沈黙が流れたが、その均衡を雄治が破った。

「…どういえばいいんだか分からないが、このことは誰も悪くないと思うけど…ただ運が悪かっただけじゃないのか。ただ、オレたちの子供がこの世に早く生まれたかったから、お腹の中で暴れたんじゃないか…こんなのやっぱ、気休めだな」

 芳江はまた潤み始め、少し微笑んだ。そして雄治は続ける。

「まあ、終わったことはしょうがないが…もとに戻れるわけでもないし。また挑戦すればいいじゃないか」

 芳江は雄治の言葉を聞いて泣くのをやめた。自分の思いが吹っ切れて、少し元気付けられたようだ。しかしそれに代わって、医師は険しい顔で言った。

「残念ですが…奥さんは今回の出産で、妊娠、ともに出産ができない体になってしまいました」

「えっ」

 雄治はびっくりした。芳江もこのことは知らなかったようなのでびっくりしていた。

「なぜですか、何でそんなことになったのですか」

 雄治は興奮したように言ったが、医師には冷静さがあった。

「えー、実はですね…お子さんが出てきたとき、妊娠する際に必要な中枢器官がやられまして、なので…」

「つまりもう子供は…オレたちの子供はできないということ何ですか」

 雄治は医師を問い詰めた。答えは聞きたくなかったが、真実は知りたい。これからの人生に、子供がいないなんて、考えられない。

 すると医師は深刻な表情をして二人に告げた。

「…はい、そうです。奥さんは、もう二度と妊娠することはないでしょう」

 医師は言い終わると、さらに表情が険しくなった。もう誰とも目を合わせようとはしない。芳江は魂が抜けたように、強くベッドにのしかかった。雄治はというと、石像のように硬直して、ぴくりとも動かなかった。二人は黙った。芳江の目からは、丸く太陽に照らされ光っているパチンコ玉のような、大粒の涙が溢れ出た。そのしずくは頬をつたって、芳江の手に滴り落ちた。
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