この空の下で
「ここはオレが来てる大学だから…当然だろ。で、なんでお前はここに」

「私もここの大学に入ったのよ。ある程度有名だし…将来的に役に立つかなーって」

 芳江は幸せな人生を送っているかのように、小さく笑った。

「それにしても、久しぶりだな。もう大丈夫なのか、病気の方は」

「うん、だいぶ良くなった…」

 芳江は突然うつむいた。そしてオレは抵抗することもなく、いきなり芳江に抱きつかれた。

「…会いたかった。ずっと、ずっと待ってたんだからね…」

 芳江はオレの胸の中で静かに泣き始めた。オレはその芳江の頭を手でゆっくり引き寄せた。

「オレもだよ。お前のことをどんなに待ち望んでいたことか…」


 ここでオレと芳江は互いに待ち望んでいたことを告白しているが、互いにまた会えるとは思ってもいなかった。

 そして二人の関係をつなぐための手紙は、確かに二人とも送り続けていた。しかし互いに勘違いをしていた。それはオレが彼女の家に送っていたことだ。なぜと思うかもしれないが、彼女は病院に入院していたので、彼女の元に届くはずがなかった。彼女の親が手紙を届けてくれると思われるが、彼女の母親は彼女が幼いころにして死に、父親はというと、芳江が入院してから一ヵ月後に、静岡に単身赴任をしていて、家に戻るのは一ヶ月に一度であり、その上新聞も取らないので、郵便受けを開けることはなかった。彼女の場合は根本的に住所を知らなかっただけなのだ。高校時代、一緒のクラスになったことがなかったので、連絡網でオレの電話番号を得ることができなかった。いつでも教えてもらう機会もあったのだが、彼女はタウンページで分かると思っていた。案の定、オレの家はそれに登録をしていなかった。

 それがオレ達の間を不安にさせ続けた事実である。
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