この空の下で
 彼女のことが嫌いなわけではないが、ついつい、母さんの肩を持ってしまう。そんなことで、はっきり言って損するのは私だが、何だか母さんに共感して、つい手伝いみたいなことをしてしまう。きっとこれかの人生も、損ばかりのことであろう。

「あ、そうなの…」

 私はキッチンに入り、何気ない顔でお茶を汲んだ。

「で、要君は、いる?」

 葵は私に微笑を投げかけた。

「今、友達の家に行ってる。でも、そろそろ帰ってくると思いますよ」

「あら、そう…」

 葵は表情を一つ変えずに、相変わらずの調子で話した。

「じゃあ、これからどうするんだ」

「そうね…とりあえず、待ってみる」

「そうか…」

「でさ、去年のことだけど、また…」

 二人は再び話を続けた。私はそんな空間にいられる人ではないと思ったので、そそくさと部屋を後にした。


「で、どうだった?」

「別に…聞いてたでしょ?」

「まぁ、そうだけど…」

 私の言葉を聞くと、母さんは少し辛そうな顔をした。声からもその悲しそうな気持ちが表れている。私は自分のことが嫌になってきた。

「でも、なんだか、要のことを待ってるみたいだったよ」

「知ってる」

「え?」

 母さんはしまった、といった顔をして、すぐにいつもどおりの表情に戻したが、私はその表情を逃さなかった。

「ねぇねぇ、なんで知ってるの?」

 母さんは最も恐れていることを聞かれたような顔をした。そして口元にしわを寄せながら、自分に対してうなずいた。

「ん、んん…聞いたのよ。話の流れから…分かったわ」

 それだったらなぜそんなきつい顔をするのか、なぜそのような動作を起こしたのか、それが私の頭の中に矛盾として残った。

 そして私はさらに追い詰めようと思った。

「なんかおかしいなぁ」
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