この空の下で
「そういや、そうかも…」

 要は小さくうなり声を上げて、少し頭をかしげた。

「それで、母さんには何て言ってた、葵さんは」

「何って…特に何にも…だけど」

「何もって…何それ」

「何もは、まったく話してないって意味だよ」

 私も首をかしげた。そして下唇を噛みしめ、頭の中で何か情報になるものを探してみたが、結局見つからなかった。やっとのことで口から出てきた言葉は情けないものであった。

「本当にまったくなの。何にも話してないの?」

 要は確信を持って言った。

「うん、相槌を打ってただけで、会話には加わらなかったよ」

 気付いてみると、肩が重くなっていた。自分の当てが外れ、気持ちが落胆し、頭も垂れ下がっていた。

 そんな私の姿に気の毒に思ったのか、要はゆっくりと口を開けた。

「だけど、僕とよくしゃべったよ、葵さん。父さんはそっちのけで」

 私ははっと思った。さっきまで母さんと何を話していたのかが気になっていたが、今は葵さんの目的について、知りたくなった。

 私はすぐさまその話題に乗り換えた。

「で、何話したの、葵さんと」

「そうだなぁ…」

 要は手をあごに乗せて、考え始めた。

「いろいろと話したからなぁ…」

 私はこの間にあらゆることをめぐらした。なぜ要だけと話したのか。なぜ二カ月おきに来るのか。なぜ葵さんは私と話そうとしなかったのか。もしかしたら、父さんや母さんはあえて葵さんと会話せずに、要と葵さんの話を黙って聞いていたのだろうか。葵さんは要だけの話を聞きたかったのだろうか。今の私には分からない。要の言葉次第で、私の想像は大きく変わる。しかし要はそんなことをお構いなしで言うだろう。

 要はまだ思い出そうと必死だ。私はベッドに横になり、窓を通して赤々と燃える広大な空を眺めた。
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