この空の下で
 しかし、ここで一つの疑問が生まれる。

 それは、なぜ要だけにアンケートをとったのか、ということである。要ぐらいの年齢対象であるアンケートであるなら、私でも良かったはずだ。しかし、男性だけであるなら私は対象外である。それだったら父さんがいたのに…。男性のみで、要の年齢対象のアンケートなのだろうか。しかし、そんな都合のいいアンケートは、実際問題、あるのであろうか。

 そこで私は、その真相を知るべく、さらに要を問い詰めた。

「それで、このアンケートって…毎回あったの?」

「う、ううん…やってない…」

「ふーん、そうなの…」

 何か気付いたのか、要は大きく目を見開いた。そして私の目からそらそうとしたが、要にはできなかった。しかし要の動揺しきった表情を、私は見逃すはずがなかった。

「要、何か隠してる?」

「何にも…」

「白状しなって、ね」

 少し大人ぶってみた。しかし要は白状しなかった。それもそのはず、要は人との約束や秘密などはきっちりと守り、口は誰よりも堅かった。そしてとても生真面目でもある。そんな要を白状させるのは、難攻不落の城を陥落させるのと同じことであった。

 しかし私は決してあきらめようとせず、この後もくどく真相に迫った。そして表情はゆるくなった時もあったが、一言もアンケートについては話そうとはしなかった。十分、二十分と時間は流れ、いくら話しても無駄だと思った。なので私は、要を突き放すように冷たい視線で、そしていかにも怒っているような声で言った。

「もういいわ。母さんに聞く。じゃ」

 私は部屋を後にし、要の苦い顔を想像しながら階段を降りた。


 リビングに通じるドアから中の様子をうかがった。母さんは台所で夕飯の準備をし、父さんはソファーに座って新聞を読んでいた。なんだか母さんは忙しそうであったので、今は聞くのをやめておこうと思った。それにしても、父さんもなにか手伝ってやればいいのに。

 私は自分のことを棚に上げて、そーっとその場から離れた。

 今日の夕飯をキッチンから漂ってくるにおいで想像し、腰を折って階段を一段ずつ数えながら自分の部屋に向かって歩いた。
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