この空の下で
 そしてその間、長い沈黙の均衡に閉ざされていた。時間はゆっくりと流れているように感じられた。

 しかし医師が思いもよらないことを言った。

「しかし、一つだけですけれども、子供ができる…いや、育てられる方法があります」

 雄治と芳江は顔を上げた。

「すみませんが…」

 二人は同時に言った。そして雄治が質問を続けた。

「すみませんが、方法とはどういった方法なのでしょうか」

 雄治は恐る恐る小声で聞いた。そして医師はゆっくりと口を開いた。

「それは養子を貰うことです」

「養子?」

 雄治は大体予想をしていたが、そのとおりになったので驚嘆した。

「養子ですか」

 芳江は眉間にしわを寄せて、口をぽかんと開けている。

「はい、そうです。私の知り合いに、孤児院で働いている鎌塚という人がいるのですが、ちょうど昨日生まれた子供がいるらしいのです。その子の両親はもう他界していて…どうでしょう?」

 医師は馬鹿に冷静に話した。この場に及んで、雄治の答えは一つしかなかった。

「ぜひ、お受けします」

 雄治はつい大きな声を出してしまった。そしてそのとき、カーテンの外から、シーッと言う声が聞こえた。雄治は頬を赤らめた。

 そして芳江は反論でもあるような顔をして、強く言った。

「ちょっとあなた…いくらなんでも、検討もしないで返事を返すのは…」

 芳江が言い終わらないうちに雄治が言う。

「そんなこと言ってもしょうがないだろ、お前はもう…悪い、口が滑った」

 芳江の目が鋭くなり、雄治を見た。

「そうね、なら、それでいいんじゃない」

 芳江は冷たい視線でツーンと人を突き放したように言った。雄治から外へと、目を向けた。雄治は悪いと同じ言葉を繰り返し言ったが、芳江の表情は変わらなかった。

 そして今度は医師が困ったような顔をして、二人に言った。

「どうしますか」

 二人にとってこれが最後の選択肢だった。どうしても自分の子供がほしい。どうしても自分たちの手で子供を育てたい。たとえ、本当の自分の子供でなくても。そんな気持ちが二人を一つにした。そして二人は声を合わせて、同じことを言った。
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