この空の下で
「で、何にしようか」

 幸恵は机に乗り出して言った。

「私的にはどれでもいいんだけど…聖子はどう?」

 私は前に座っている聖子に問いかけた。しかし、聖子はガラスの向こうを見つめたまま動かない。

「聖…子?」

 聖子の横顔は堅く、なんだか物寂しげな雰囲気を漂わせていた。そして目には、暗い空が映っており、さらにその奥には、人生に嫌気がさしているようであった。もう、こんな人生は歩みたくない。聖子の容姿には、そんな強い意思が見られた。こんな聖子の姿を、四年ぐらい前に一度だけ見たことがある。しかしその時はただ、雰囲気だけを感じることしかできなかった。その時はまだ、人の心を読むことだなんてできなかった。しかし今は違う。聖子のおかげで、だいぶ人の気持ちや感情が分かってきた。

「ちょっと聖子、聞いてる?」

 幸恵は無神経だ。しかしこの無神経さも、時には人を元気付ける糧ともなったことがある。

 聖子はようやく振り向き、表情をほぐした。そしていかにも元気そうな声で言った。

「何、何か言った?」

 聖子の空元気はいつまで続くことか。私はそれだけが心配であった。

「何って、レクの競技、何やるかに決まってんじゃん」

「そうなの…何でもいいわ」

「何だそれ」

 幸恵は頭を落とした。

「何か、一人で舞い上がってると、悲しくなってくるし」

 私は笑ったが、聖子は微笑んだだけであった。そして聖子は前を向いて、再び外を眺めた。

 そしてその後は、私と幸恵だけで相談した。いくら呼んでも聖子は、いい、と一点張りであった。

 窓際の席で、聖子の背中は寂しそうに何かを物語っていた。何と言いたいのかは何となく分かっているつもりだが、聖子の本音は心の奥底にあることであろう。私には一生あがいても知れない聖子の本音を、私はそっとしておくことにした。
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