この空の下で
 聖子は度肝を抜かれたような顔をした。そして生まれたばかりの雛のように、辺りをきょろきょろした。

「帽子を捕ればいいの。がんばってね」

 相変わらずの調子で幸恵は答えた。

 こんな切羽詰った状況でも、私は左方で抗戦を繰り広げている前原さんの馬を見た。するとその時、前原さんの馬は突如崩れ、砂が舞う地面に騎馬は落ちた。これで三対一。非常に不利な状況だ。

 しかし、正面の相手の馬は勢いが治まらないまま、こちらに向かっていた。

「よし、もうやるわよ」

「そうそう、その意気」

 気合を入れる聖子をよそに、楽しんでいる幸恵がいた。こんなので大丈夫であろうか。私はかなり不安に思った。

「来るわよ。かまえて」

 その一言で、馬の士気は急激に上がったが、聖子はものすごい形相になった。そして馬を相手側に傾けた。

 相手の騎馬は、聖子の帽子を奪おうと手を伸ばした。そして私たちの馬と相手の馬は勢いよくぶつかった。相手の騎馬は前に乗り出し、聖子の帽子をつかもうとしたが、聖子は体をそらしてかわし、そしていとも簡単に相手の帽子を捕った。それと同時に、相手の馬は崩れた。

「よし、あと二つ」

 聖子はまた気合を入れ、馬を残りの二組の方に向けるよう指示した。

 しかし、相手の帽子を捕らずに、ホイッスルがグラウンドを響かせた。

「え、何で」

 すると他の二組の馬は崩れ、皆、悲しそうな表情に変わった。そして、前原さん達がこちらに駆け寄った。
< 126 / 173 >

この作品をシェア

pagetop