この空の下で
 聖子の感情とは裏腹に、私の心の奥底で、彼女に対する小さな怒りが芽生えはじめていて、気持ちも高ぶっていた。

 そして、今まで人にはぶつけたことがない憎しみと怒りを言葉にして、聖子にぶつけた。

「…何で…何で、そんなことを言うの?」

 単純で短い言葉であったが、聖子の表情は一変した。眉間にしわを寄せた彼女の表情は、驚きではなく、怯えでもなく、戸惑いが感じられた。こんな時、私はいつも口をつぐむのだが、この時だけは違っていた。

「私達って…いつも一緒じゃないの?」

「…うん」

 聖子はそれを言ったきり、下にうつむいたまま私と目を合わせようとしなかった。

「もう一生会えないような言い方はやめて。また会おうと思えば会えるじゃない。いくらでも会えるじゃない」

 聖子は涙目のまま、顔をすっと上げた。涙を見せないためであろうか。しかし今の私には関係がなかった。

「自分だけだと思わないで…私だって、聖子と離れたくなんかはないんだから」

 知らずのうちに、私の目からは涙が滴っていた。光に照らされ、水晶玉のように輝いている涙は、地面に向かって落ちるたびに、ガラスのように割れた。

 その時突然、聖子は私を抱いた。そして聖子の顔は緩んだ。

「私…深雪と友達でよかった…」

 聖子は、私がいままで見たことがない笑みを見せた。そして涙をこぼしながら優しく微笑んだ。

 私も涙を流していたが、聖子の涙をハンカチで優しくぬぐってあげた。


「広仲 紗枝」

「はい」

 卒業式が始まり、もう三十分が経つ。

 いくら自分たちのためであって特別な式であっても、さすがに退屈だ。しかも、おしりも窮屈になってきた。もう限界に近づいている。早く式が終わって欲しい。なぜ式というのはこう長々と行うのか、私はいつも不思議に思う。

 しかしこうしている間も、何かと暇なわけではない。周囲を見渡せば、いろいろな人の癖や動作が分かる。貧乏ゆすりをする人。頭を頻繁に動かす人。手を背中に回す人。これらを見るだけで楽しくなってくる。意外な人があんなことをやっている、と思うだけで変な優越感を味わった。
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