この空の下で
 そんなことを続けていくうちに、いつの間にか自分のクラスが、卒業証書授与の番になっていた。

 そして、自分たちのクラスの番になったと思うと、時間が流れるのはあっという間で、すぐに自分の番になった。

 その後は頭が真っ白になって、まったく覚えていない。いつの間にか自分の席に戻っていて、右手には卒業証書があった。

 イスに座り、再び人間観察を始めようとすると、聖子の名前が読み上げられた。

「望月 聖子」

「はい」

 聖子の声にはまったく迷いがなく、きれいに透き通っていた。

 そして、聖子は壇上に向かって歩き出した。その背中には、もうあの時のような彼女はなかった。そこには、堂々としていて、未来を見つめる、今を大切に、ひたすら生きる、一人の少女が会った。

 もう、彼女は一人ではない。彼女は周りに支えられ、知らずのうちに大人になった。そして今、彼女はこの学校を飛び立つ。そう、私たちと共に。


 卒業式は終わり、記念撮影が始まった。こんな日は学校も特別で、カメラの持込を許している。私も友達に混ざって、それを楽しんでいる。

 しばらくすると、教室内は突如さびしくなった。残っているのは私と聖子だけで、幸恵は打ち上げへ行ってしまった。私はその打ち上げには行かないつもりだ。別に楽しい楽しくないというわけではない。ただ、今日はずっと聖子と過ごしたかっただけであった。聖子も打ち上げに行けばいい話なのだが、一人でいたい気持ちは、私には心が痛むほど分かる。

 窓際に立っている彼女は、外をじっと見つめていた。その横顔は、やはり寂しいものがまだ残っていた。

「聖子、そんな顔してどうしたの。帰ろ」

「…うん」

 その彼女の一言は、どれだけの重みがあったかは、私には分かる。その言葉を言った時の彼女の表情は、天使のように微笑んでいた。その上、左頬が光に照らされて、柔らかさを感じた。

 そして私たちは、自分たちの荷物を持って、教室を出るのであった。
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