この空の下で
「はい、お願いします」  医師はきょとんとした顔で二人を見た。さっきまで喧嘩をしていたはずなのに、息はぴったりだったことに驚いたからだ。

 雄治と芳江は顔を見合わせて微笑んだ。しかしその中で、医師は二人に強く、そしてくどく忠告をした。

「しかし、これは単なる遊びではありませんよ。命のやり取りですから…本当にいいのですね」

「お願いします」

 今度は雄治だけが言う。

 そして医師は一回咳払いをして開き直ったように言った。

「分かりました。では、紹介状を書きますので九時半ごろにロビーで待っていてください。その時お渡ししますので」

 医師は立ち、頭を下げた。

「では、これで」

 そう言うと、医師はカーテンの向こうへと消えていった。

「で、どうするの、本当に…今のうちなら、取り返しがつくわよ」

 芳江は不安そうに言った。だが、雄治は自分の気持ちを、そっくりそのまま芳江に言った。

「俺だってそんなに簡単な気持ちで子育てなんてするつもりなんかない。ただ、自分の子供が幸せになるのを見たいだけなんだ。お前も同意してくれたじゃないか。この気持ちがあってからこそじゃないのか」

 その時また大声を出したにも関わらず、カーテンの外からは何も聞こえなかった。

 そして芳江は納得したように一息ついた。

「まあ、そうだけど…」

 芳江は手で口をふさぎ、少し思いつめたように少しうなった。そしてすぐに頭を起こした。

「…分かったわ。あなたなら、信じられる。でも、これだけは約束してちょうだい。絶対に、子供を正しい道へ導くって、そして必ず幸せにするって、ね」

 芳江は頭を傾けて、甘ったるい口調で言った。

「ああ、分かっているさ。絶対に俺達の子供を幸せにして見せる。もちろんお前も、な」

 雄治は芳江の手を握った。芳江は雄治の目を見つめた。もちろん雄治も芳江の目を見つめている。そして二人は目をつむり、顔を近づけた。

 その時、カーテンの外でこんなことを耳にした。
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