この空の下で
「おい、それでどうするんだ、映画。行くのか行かないのか」

 授業が終わったのと同時に、英一は自分の席からすっ飛んできた。

「どうしようかね」

 僕はいかにも、もったいぶった口調で言った。

「みんな行くんだぜ。行こうよ」

「みんなって、他に誰か来るのか」

「来る」

 英一はいやらしい顔でにやけた。しかし僕は、いかにも興味ないような顔をした。すると、思ったとおり、英一はかまって欲しそうな顔に変わった。

「なんだよ。知りたくないのか」

「別に」

 僕は興味がない人を演じ続けた。

「張り合いがねぇな。じゃあ、もうぶっちゃけ言うけど、幸恵とだ」

「はぁ、あのじゃじゃ馬とか」

「誰がじゃじゃ馬よ」

 口が達者だからそう言っているんだ。いくら黙れと言っても黙らないからそう言うんだ。僕は心の中で、できる限り大きな声で叫んだ。

 そして幸恵の話が始まった。

「で、行くのか行かないのかはっきりしなさい。というより、私的には、アンタには来て欲しいとは思ってなくもないわ。だけど、アンタが決めることよ。早く決めなさい。こいつはアンタが行かないんだったら、他の人を誘わなきゃいけないのよ。だから早く決めなさい」

 終わった。こいつの話はとりあえず長い。これ以上、幸恵の話は聞きたくなかった。それに、これ以上抵抗したところで、幸恵に勝てるわけがない。

 僕はついに骨を折った。

「分かったよ。行くよ」

「そう、じゃ」

 幸恵はうれしそうな顔で教室を出て行った。そして英一は苦笑した。

「悪いな。半ば強制で」

「強制だよ」

 僕は外を見た。

 外はまだ滝のように降り続け、帰りまでにやみそうにない。おかげで、今日の体育は中止だ。今日は憂鬱デー。明日はどんな日が待ち構えているのであろうか。

 チャイムの音は構内を響かせたが、だんだん雨の音にかき消されていった。
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