この空の下で
「深雪、お前、どっか行くのか」

「うん、じゃ」

 深雪は今にも雨の降りそうな曇天下に出た。

 それを見届けた僕は、自分の部屋に戻った。そして支度をする。今日は五日ぶりに雨がやんで、絶好の日和まではいかないが、涼しくてとても過ごしやすい日であった。しかし今にも雨が降りそうな天気で、出かけるのが嫌になる。そんな僕を雨空は、嘲笑っているかのように見えた。

 そして五分後、僕も深雪に続いて外へ出た。


 風は冷たく、唸りを上げて体中を走り抜けた。葉はそよめき、僕の行く手を妨げるかのように散り荒れた。

 その中を一生懸命にペダルをこいだ。待ち合わせの時間までに遅れそうだ。今日はものすごい向かい風で、歩いた方が早いかもしれないくらいであった。

 待ち合わせのスーパー前まであと少しの距離を、僕は風を切るように自転車を進めた。


「で、なんでお前がいるんだ?」

「それはこっちのセリフよ」

 深雪は鋭い眼光でこちらを睨んだ。

「で、アンタは何でここに?」

「オレは英一と幸恵に誘わ…」

「はぁ?」

 深雪は眉間にしわを寄せると、小さなため息をした。

「まさかお前も?」

 僕も下をうつむき、大きなため息をついた。

「…やられたな」

 二人は呆然と自転車にまたがっていた。ただ、風は二人の間を駆け抜けて、閑静と沈黙を運んできた。

「で、どうする、これから」

 いまだに変わらぬ深雪のしかめっ面は、悔しさで詰まっていた。

「どうするったって…せっかく来たんだし…行くか?」

 深雪は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに照れくさそうに言った。

「…うん」

「じゃ…行くか」

「うん」

 二人の自転車はゆっくりと進み始め、風はそれを後押しするかのように吹いた。

 そして僕らのデートは始まった。長い一日になりそうであった。
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