この空の下で
 風と共に、僕らは進む。

 そういえば、女子と自転車で並列に走るのは初めてであった。しかし、全然ドキドキしないのはなぜだろう。普通なら、初めて異性と並んで走る時、胸が高鳴り、今まで感じたことのないような思いでいっぱいになる。そして話の切り出しに困るはずである。

 このまま何も話さないのも悲しいので、とりあえず話題をつくることにした。

「ところで、最近、どーよ」

「何、最近って」

「学校はどうだ、ってことだよ」

「あー、そうね…まあまあじゃん」

「それじゃ、会話終わっちゃうじゃん。もっと話題広げようよ」

「私、話下手だから」

 意外な返答に、僕はたじろいだ。

「女子って…みんな話し好きなのかと思ってた」

「それは間違いね。人それぞれよ、やっぱり。私は静かな方が、比較的好きかな」

「ふーん」

 やはり人それぞれなのであろうか。深雪の一言で、持論は見事に崩れ去った。しかしあまりショックは受けなかった。深雪のおかげで、少し人について知ることができたと思ったからだ。

 僕は話を続けようとしたが、深雪の、比較的静かなほうが好きだ、という言葉に抑圧されて、何も話すことができなかった。

 沈黙と共に、車輪は回り続ける。僕らを妨げる風は、すでになかった。


「何がいい?」

「そうね、私は…何でもいいわ」

「じゃ、早い時間帯のやつにするか」

「うん」

 僕はタイムスケジュールを見た。そしてチケット売り場へ二人は向かった。

 チケットを買う際、売り場の女性は、微笑ましいものでも見るような顔でこちらを見ていた。僕はその顔を見ることができず、急に背中が熱くなるのを感じた。

 チケットを買うと、僕は急いでいるように深雪の手を引っ張り、その場を後にした。深雪の恥ずかしそうな声が聞こえたが、僕はもっと恥ずかしいことを知っていた。
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