この空の下で
「おい、英一。お前、はめたのか?」

「え、何が」

「とぼけんなよ。何で、映画に来なかったんだ」

「あー、あれね。行ったよ」

「え、どういうことだ」

「どういうことって、オレはちゃんと幸恵と行ったぜ。しょうがなくだけど」

 英一は苦笑いを見せた。そして英一は続ける。

「というより、お前も来なかったじゃん、映画に」

「は?」

 まったく意味が分からない。僕らは確かに映画に行った。なのになんで英一らも映画に行った、なのだろうか。

 僕はその真相を知りたくなった。

「ちゃんと映画に…」

「分かった」

 英一は満面の笑みだ。

「分かったぞ。良かったな、これで解決だな」

「何が」

「映画の件だよ。教えて欲しいか」

「ああ」

「じゃ、百円な」

「なんだそりゃ」

 チャイムは高く、教室中に鳴り響かせた。


 あとで気付いたのだが、この辺りには同名のスーパーがある。それで、一方のスーパーに集まった英一らと、もう片方のスーパーだと思って集まった僕らは、絶対に会えるはずがない。しかも、僕らは彼らを待とうとせず、さっさと映画館に行ってしまったのだが、英一らはある程度、僕らを待っていたと推測すると、映画館の中でも会えるはずがない。まして映画館に行ってすぐに観始めた僕らとは、絶対に会うことはない。


 あー、こんな不思議な巡り合わせがあるだろうか。このことに、深雪はいまだに気付いていない。というより、あえて教えていない。
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