この空の下で
 思いつく言葉が、次々と口をついてくれたので、この場は難なく収拾することができた。それにしても、おかげで部活に行けなくなったが、今はそんなことを考えている時ではない。本番はこれからだ。それは長く、いつまでも続く帰路が待っていると思ったからであった。

 風は吹き荒れ、行く手を阻むかのように落ち葉を操った。それを抜けると、人がめったに通らない道に入る。

 僕はその道に入ってから、斜め下を向いている水神に話しかけた。

「なぁ、水神。付き合うって、どういうことだと思う?」

 突然の質問に戸惑ったのか、水神は慌てた顔をした。

「付き合うって…好きな人と遊んだり、楽しんだり、いっぱい思い出を作ったり、とりあえず、一緒にいるってことじゃないの…かな」

 水神の笑顔は穏やかで、寛大であった。そのはきはきした顔にも、僕は惹かれていった。

「それも一理あるかもな。でも、それがすべて正しいわけではないよ」

 何言ってんだ、僕。今、そんなことを話しても意味ないじゃないか。僕は初めに、この質問を言ったのが間違いだったと思った。今頃後悔している自分が滑稽に見えた。

 しかし予想外にも水神が食いついてきた。

「え、何。要は何かあるの?」

 水神は目を輝かせた。

「え…それはな、えーっと…例えばな、ここに片思いの人がいるとする。それで、片思いの人が好きな人と付き合うとしても、その片思いされている方はまだ、片思いしている人のことが好きじゃないかもしれない。たまに両思いだというパターンは希にあるけど、ほんとにごく希だから、めったにない。つまり、付き合うっていうのはな…もし自分が片思いしている方だとすると、相手に好きになってもらうために付き合い、もし自分が好きになられている方なら、その片思いしている人のことをよく知るために付き合うってことだと思う。結果的に、付き合うっていうのは、愛を育み、互いを知るための期間だと思うんだ」
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