この空の下で
 そして母さんは印を押した。

「はい、結構です。じゃ、頑張ってね、深雪さん」

「はい」

「失礼しました」

 私たちは教室を出て、共に昇降口まで向かった。外は晴れ晴れとしていて、あまり雲はなかった。しかし太陽には雲が少々かかっていた。

「じゃあ、深雪、頑張ってね」

 母さんは優しく微笑むと、駐車場までゆっくりと歩いていった。

 私は無性にその背中を追いたくなったが、追えなかった。私を突き放しているのか、その背中はもう見られないようなそんな雰囲気を漂わせていたからかもしれない。


「よぉ、調子どーよ」

 先に受験先の高校に向かっていた要は、私が教室の席に着くなり、一人浮かれた口調で言った。

「別に…ちょっと不安なだけ」

「あっそ。ま、がんばれや」

 要は後ろを振り向いた。

 ああ、緊張する。なんで要はあんなに余裕をかましていられるのであろうか。なんだろう、この差。自分は本当に受かるか心配しているのに。

 そして監視員が入り、テストを一人ずつ丁寧に配った。

「チャイムが鳴るまで、問題用紙と解答用紙は裏にしておくこと」

 私が時計を見た時、前触れもなくチャイムは鳴った。

 いよいよ始まった。私の胸には不安と期待でいっぱいであった。


 チャイムの音が鳴り、ついに試験は終わった。

「やったね深雪。ついに終わったね。これからどっか行く?」

「いいや…なんか疲れた」

「そう、じゃ、また今度誘うわ。じゃあね」

「じゃあね」

 せっかくの誘いだったが、私はまっすぐ家に帰ることにした。ひどく疲れた。

 ベッドに寝転がり、私は一週間後の合格発表について思った。果たして合格しているだろうか。その夜も、それが気になって、寝ることなんてできなかった。決してもう勉強をしなくていいという開放感なんてなかった。
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