この空の下で
 よく寝た。受験が終わり、やっと生きている実感が湧く。俺は自由だ。受験という束縛から解放された気分だ。

「おはよー」

「…おはよ」

 深雪は眠そうにあくびをし、腕で目をこすっていた。

「どうしたんだ。よく寝れなかったのか」

「…まあね」

 深雪は今にも転びそうな足取りで階段を降りていった。


 最近、憂鬱なことが多かった。

 水神の親が転勤で、あっちの高校に通うため、水神は引っ越すことなった。彼女は手紙のやり取りをしようと言ってきたが、僕は断った。また会えることを信じて、僕は約束だけをした。一時的に交際をなかったことにしよう、思い出は大事にしまっておこうと言った。その時はなぜ、そんなことを言ったかは分からなかったが、後に分かることになった。

 そして、卒業式までの一週間。時はむなしく過ぎ去っていった。というのは、小学校のようにレクリエーションは行わず、特に何もしなかった。卒業式の練習、卒業制作、早帰りだけであった。だが、早く帰れるので、いつもと違って思いっきり遊べる。これはあまり憂鬱には思わなかったが、とりあえず、学校での無駄な時間が嫌だった。

 最後のとどめには、卒業式の長さである。みな泣きべそをかいて、情けなく思った。早く帰りたいと思っても、司会の卒業生が何を話しているのか分からない上に、話す速度も遅い。

 ああ、憂鬱。嫌なことが起こると、人は何でもマイナスのほうに考えてしまう。僕も例外ではない。受験は大丈夫かなぁ、とさえ考えてしまう。

 しかし、それも無駄な心配となった。
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