この空の下で
 俺はある一つの可能性を考えた。もしかしたら記録違いかもしれない。実は俺らはA型かO型かもしれない。もしくは、父さんか母さん方の血液型が間違っているのかもしれない。しかし、そんな可能性も、一つの考えで一瞬になくなった。それは、そんな立て続けのミスなんてありえないと思ったからだ。第一、こんなに医療が発達しているこの世で、ミスなんてそんな頻繁にするはずがない。

 そしてたどり着いたもう一つの可能性は、俺らは父さんと母さんの本当の子供ではないという可能性。養子として引き取られた双子という可能性。

 それを考えると、俺の体は震えていた。そして涙が急に溢れ出す。今までの生活は何だったんだろう。

「ただいま」

 母さんだ。

 俺の体は涙で波紋のように次々と震えた。他人。これほど嫌な言葉がないと思った瞬間だった。

「ただいま」

 居間に入ってきた母さんは荷物を下ろし、固まっている俺を見た。

「どうしたの、泣いちゃって。そんなに感動するの?」

 俺はもう、母さん、と言えない気がした。なら何と言えばいい。保護者さん、芳江さんと言えばいいのか。もうこの場から消えたい気分だった。死にたい。俺は自殺場所をどこにするか考えた。

 涙は止まらず、さらに勢いを増してあふれ出した。

「本当にどうしたの」

 母さんはキッチンからタオルを持ってきた。

「はい、これで拭きなさい」

 母さんはタオルを差し出した。俺はテーブルに本を置くと、母さんの手をはたいた。そして母さんの手からタオルが落ちる。

「何、いきなり…」

 完全に動揺しきった母さんは、きょとんとした目でたじろいだ。

「…義母さん…ほんとのこと教えて…」
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