この空の下で
 そして階段の前まで来ると、目の前がうっすらとぼやけて見えてきた。階段に足をかけようとするが、思うように膝が曲がらない。しかし私は手すりにつかまって、やっとのことで踊り場まで上った。あと半分、と私は心の中で唱えた。が、視界は次第に薄れていった。そして二段目を上ろうとしたその後、私は覚えていない。


「ん…ん…」

 私は目を開けると、目の前には白いが、薄暗い天井が一様に広がった。

 そして隣から声が聞こえた。

「深雪…起きた?」

 母さんの声だ。

 私は体を起こそうとしたが、全身に痛みが走った。そして再び柔らかいベッドに落ちた。

「無理よ。もうちょっと寝てなさい」

「…うん」

 私は頭を枕に沈め、そのまま動かなかった。

 そして目だけを動かして辺りを見回した。周りは静寂に包まれ、誰もいないように思えたが、実際に見てみると、本当に誰もいなかった。隣のベッドに母さんが本を読んでいるだけであった。

 倒れる直前、そこだけ記憶が霞んでいた私は、母さんに聞いた。

「母さん。私、どうしたの」

「倒れたの、階段で」

「…ふーん」

 母さんは本を閉じて、電気を消そうとした。

「待って、消さないで」

「…分かったわ」

 電気スタンドのスイッチから手を放した母さんは、布団にもぐりこんだ。

「ねぇ、要と父さんは?」

「家でお留守番」

「え、何で」

「だって女同士のほうが、いっぱい話せるじゃない」

「…ふーん」

 私は流し目で母さんを見ると、母さんは自分と反対のほうを向いて寝ていた。

「私、ところで何でここにいるの」

「だってアンタ、軽い全身打撲をしたのよ。あと、ちょっと出血のしすぎで」

 母さんはこちらに寝返ると、うれしそうに微笑んだ。

「…久しぶりね」
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